Tomofiles Note

ドローンとインターネット、そして人との関係を考えるソフトウェアエンジニアのアウトプットブログ

国内外のドローン関連ウェブサービスを調べる(4) 〜UTMと分離の戦略・戦術〜

こんにちは、Tomofilesです。

今月はもっぱら海外のUTMの動向調査ばかりしてますが、だいぶ海外の状況が把握できるようになってきました。
実は英語が読めないので、海外のウェブサイトをGoogle翻訳に頼り切って読んでるのですが、PDFだけが翻訳きかなくて、以前は収集できる情報に偏りがありました。

今回、本家UTMの提唱国、アメリカの最新のUTM運用コンセプトVer2のPDFを、ひたすら手で翻訳して全部読めたので、その他色々考えたことや調査したことを含めて、整理したいと思います。

FAAのUTM運用コンセプトのPDFは、以下のリンクです。
https://www.faa.gov/uas/research_development/traffic_management/media/UTM_ConOps_v2.pdf

それでは、いきましょう。


<目次>

分離という概念

前回の世界のUTM動向調査でも少し触れましたが、UTMという概念は、日本でも実現に向けた研究開発が進んでいます。

tomofiles.hatenablog.com

ただ、日本のUTMは「運航管理システム」と呼んでおり、その目的は物流等を目標とした「交通管理」の概念をベースに、構築されています。

※以下のリンクのページ中部のPDF参照
運航管理システムの全体設計に関する研究開発 | ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト | NEDO

交通管理は、有人航空管制の目的とも一致するので、そこから引き継がれたものと思われますが、「航空機の秩序ある流れを維持・促進すること」が、日本の有人航空管制の目指すところのようです。

航空交通管制 - Wikipedia

アメリカの有人航空管制の目的はどうでしょうか?
アメリカのWikipediaを見てみると、「航空機を分離し、衝突を防ぎ、時間通りに、速く動くことを確認すること」と記載されています。

Air traffic control - Simple English Wikipedia, the free encyclopedia

「分離(separate)」という概念は、FAAのUTM運用コンセプトでも、多く登場します。
アメリカでは、有人航空管制に「交通分離のルール」というのが適用されているようで、常に各航空機の周囲に最低限のスペースを空ける必要性を重視しています。

Separation (aeronautics) - Wikipedia

これにより、各航空機が衝突するリスクはわずかである、と判断できるのです。
もし航空機の分離が失われている場合、それは「衝突している」とみなすそうです。

航空機を識別し、適切なスペースを維持し続けることで、空域の安全を守る、これがアメリカの空域管理の考え方です。

UTM運用コンセプトPDFによると、最初にUTMの必要性を説いたのはNASAだそうです。
無人航空機(ドローン)という新たな航空機の登場は、分離のルールに則った有人航空管制の安全性を脅かし、「航空機を分離できず、衝突している状態を招く」という危機だったのです。

そのため、無人航空機も有人航空管制の分離のルールに含め、改めてアメリカの空域の安全性を目指そう、というのがUTMの始まり、ということなのですね。

日本のUTMのコンセプトは分離について触れておらず、いきなり交通管理から始まるので、UTMというものの本質が見えにくくなっています。
(日本語で「航空管制 分離」でネット検索すると、日本の空域の上下分離構想の話しかヒットしません。また、「管制間隔(セパレーション)」という概念はありますが、これは航空機間の間隔のことであり、アメリカのような分離の概念は含まれないように感じます)

UTMの目的

分離という概念を念頭において、UTMの目的を改めて確認してみましょう。
UTM運用コンセプトPDFによると、UTMの目的は以下のとおりです。

  • 最大の目的は、ATC分離サービスの補完
  • 運用意図と空域制約の、オペレーター間の共有
  • UTM参加者間の、状況認識の共有を促進

よくわからない単語がいくつか含まれていますね。
一つずつ見ていきましょう。

まず、ATC分離サービスです。
これは、前述のとおり、有人航空管制の目的は分離を維持することであり、航空管制業務(ATC)を行う管制官の職務でもあります。
ATCの分離サービスを確実なものにするには、現在不確実になりつつある低高度空域を飛び回るドローンの分離が必要で、UTMがそれを担います。
UTMを、ATCを行うNAS(米国空域システム、有人航空管制システムですね)に連携することで、すべての空域の分離が達成できるということです。

続いて、運用意図です。
英語では、Operation (Flight) Intentと表現してますが、ドローンにおける飛行計画(フライトプラン)のことを、運用意図と呼びます。
(飛行計画は厳密には有人航空管制における呼称のようで、ドローン運用の計画はATCの補完なので、別の名称がつけられてるのかもしれません)
運用意図をUSSネットワークという専用のネットワークで各ドローン運航者間で共有することで、ドローンの航空機としての分離を果たします。
そして、状況に応じてATCに連携することで、ドローンと有人航空機との分離も果たすことができ、衝突を回避できます。

また、空域制約は国(FAAのような行政機関)が管理する空域の制約で、静的なものから、動的に変化するものまで、さまざまなものがあり、ドローン間の分離に加えて、この空域制約との分離も行うことで、低高度空域の「危機」の分離を果たします。
空域制約もUSSネットワークで共有されます。

そして、状況認識の共有の促進ですが、UTMには上記の分離サービスに加えて、気象との分離、障害物との分離なども担い、ドローン運航者の状況認識を補助する機能を提供することも、UTMのコンセプトに含まれます。

可能な限り、ドローン運用上の危機をUTMを介して分離し、ATCに連携することで、ドローン運航者も、有人航空管制も、安全な空域管理ができるようになる、というのが、UTMの目的になります。

空域の安全を維持するために

ではいったい、UTMは分離をどのような方法で果たそうとしているのでしょうか?

UTM運用コンセプトPDFによると、アメリカでは「UTM運用フレームワーク」という概念を設けて、危機からの分離を果たそうとしています。
UTM運用フレームワークは、以下で構成されています。

  • パフォーマンス認証
  • 空域認証
  • 運用意図の共有
  • 制約とアドバイスの共有

パフォーマンス認証

アメリカのドローン運用における「パフォーマンス」とは、日本で言うところの航空法の飛行ルールにあたるものと考えて問題ありません。
目視外飛行、夜間飛行、頭上飛行、そして、移動体からの飛行なんてのも、アメリカで禁止された飛行方法として定義されています。

運航者とFAAは直接やり取りを行い、これら規制されたルールを免除してもらうことで、禁止された飛行方法を行うことができます。
前回のUTMの記事の最後にちょっとだけお話ししましたが、ドローン規制免除の仕組みのことで、日本における期間包括申請のようなものです。

このパフォーマンスの概念をUTMに取り込み、許可されたパフォーマンスが、許可されたエリア内で行われているか、UTM参加オペレーターに共有することで、信頼性の確保と説明責任を提供するのが、パフォーマンス認証です。

パフォーマンスの内容(申請時に提出された業務の複雑さ)を考慮して、FAAから「承認された運用領域(AAO)」という空域を、ドローン運航者は割り当てられた上で許可が下ります。
運航者は、このAAOの中でのみ、免除された飛行方法でドローンを飛行させることができるのです。

パフォーマンス認証は、現状まだ実現してはいないようですが、この仕組みが実現すれば、規制当局と運航者との間のコンプライアンス的な、自らの能力の範囲での運用を遵守していることを、UTM経由で証明することができ、危険な飛行を空域内から分離することができるのだと思われます。

空域認証

空域認証は、アメリカにおける空港周辺等の管制空域内で飛行する際の、飛行許可を取得するものです。

空域認証は、パフォーマンス認証とは異なります。
パフォーマンス認証は、定められた運用領域内で飛行パフォーマンスを満たすオペレーターの能力を証明するものですが、空域認証は、オペレーターに一定期間の管制空域にアクセスすることを許可するものです。

これは、前回のUTMの記事で紹介した、LAANCによる空域認証で、すでに実現していることです。
LAANCはUTMの一部を実現しているものと推測していましたが、当たっていたようです。

この空域認証により、ATCに連携する必要のあるドローン運用を特定します。

運用意図の共有

運用意図は前述のとおり、ドローン運用における飛行計画にあたるものです。

運用意図は、実際のドローンのフライトに先立って、状況認識のためにオペレーター間で共有されるもので、フライトが発生すると予想される空域の4次元ボリューム(空間と時間)や、フライトに関連する詳細な情報などから、構成されます。
4次元ボリュームは、前回のリモート識別の記事における、識別サービスエリアのような、緯度経度などの地理座標で表現されるエリアと、その高度、および、有効な時間から構成される、空域情報です。

運航者は、希望する運用意図を、すでに存在する他の運用意図や、空域制約、地形・障害物、気象などの情報と評価し、適宜修正を加えた上で、USSネットワークに公開します。

この運用意図は、運用上の危機から「戦略的に」分離することを促進します。
戦略的な運用上の危機の分離を徹底することは、言い換えると、ドローンの運用開始(フライト)までの間に、コンフリクト(他の運航者との運用意図や、空域制約との重複・干渉)が起きない状態が維持されるということで、UTMがそれをサポートしてくれます。

制約とアドバイスの共有

運航者は、ドローン運用に影響する可能性のある、予期しない危険を特定する責任があります。
ここまでの運用意図と空域制約による戦略的な分離に加えて、気象、地形・障害物などの補足的な情報も収集・評価し、適切に危機から分離することが必要であり、UTMにはこれら補足情報を提供するサービスプロバイダーも、アーキテクチャに含まれています。

これら補足情報との分離とは別に、より高度な危機の分離サポートとして、以下の2つの仕組みが検討されています。

  • 無人航空機レポート(UREP)
  • UASボリューム予約(UVR)
無人航空機レポート(UREP)

有人航空管制には、パイロットレポート(PIREP)という仕組みがあり、飛行中に観測した特殊な気象現象を報告するというものです。

Pilot report - Wikipedia

有人航空管制のATC分離サービスにおける気象の分離をサポートするもので、現場のより生の情報を共有することで、サービスの質を向上するものです。

このPIREPにならい、UREPという無人航空機の運用にかかるオペレータの報告(運用上に観測した気象現象など)を、影響を受ける可能性のあるオペレータ間に共有する仕組みも、UTMがサポートします。

UASボリューム予約(UVR)

警察や救急など、緊急的な活動が求められる場合、空域を優先的に使用することも、ケースとして想定できます。
そのような優先的な活動は、UASボリューム予約(UVR)という特別な空域としてUTMに作成されます。UVRが発生したエリアに運用意図が存在する場合、関係するオペレーターにUVRが発生したことを警告します。
オペレーターは、UVR発生によるドローン運用に対する潜在的な影響を評価し、運用意図を修正する必要があるか判断します。

ドローン運用開始後(飛行中)にフライトに影響のあるUVRが発生した場合、UVRを退避、または着陸するなど、ドローン側がアクションを取る必要があります。
ただし、自動回避機能等がドローンに搭載されている場合、オペレーターがアクションを取る必要はありません。(ドローン側が避けることには変わりないですが)

分離を果たす戦略と戦術

先程から「戦略」という言葉が登場しますが、戦略の対となる「戦術」も含めて、重要な考え方なので触れておきます。
UTM運用コンセプトPDFでは、戦略的なアプローチと、戦術的なアプローチという2つの軸で、コンセプトが語られています。

戦略と戦術とは

何か目的を持ったコンセプトを表現するとき、戦略(strategy)と戦術(tactic)という2つの軸で表現することがあります。

戦略と戦術は以下のサイトの説明が、詳しく書かれていておすすめです。

「戦術 tactic」と「戦略 strategy」の違いは英語だとよくわかる(英語うんちく No.020) - 志塾あるま・まーた

簡単に説明すると、

  • 戦略:不確実な状況下で、ある目標を達成するための計画
  • 戦術:実戦において、任務達成のために具体的に起こす行動

となります。
細かいニュアンスはリンク先の解説に委ねますが、目的達成に向かうには、2つの視線が必要ということですね。

以前、ソフトウェア設計手法の一つである、ドメイン駆動設計(通称DDD)を学習した際にも登場した概念で、興味深く読んだ覚えがあります。

DDDの最大のコンセプトは、「ソフトウェアの複雑さに立ち向かう」ということです。

ドメイン駆動設計は何を解決しようとしているのか[DDD] - Qiita

ソースコードやプログラム構成、モジュール化などは「戦術」にあたり、機能的な実現性に対するアプローチとしては有効ですが、DDDが実現したいことの半分程度しか達成できません。
DDDがもっとも重要視しているのは、「戦略」にあたる、ドメインモデルの構築、設計と実装の一致、モジュール間の契約関係の把握などを通して、関係者全員の共通認識の促進、イテレーティブな開発、スケーラブルなアーキテクチャの徹底といった、ソフトウェアが稼働しながら進化をし続け、価値を生み出し続けるように取り組むことです。
つまり重要なのは、ただソフトウェアを作るということだけでなく、長期的な成功を収めるための活動が重要ということですね。

日本語では、戦略と戦術の違いがわかりづらいので、あまり意識して使い分けることが少ないですが、英語圏のほうが単語としての違いが明確だからか、UTMもそうですがDDDなどのスマートなコンセプトが登場するので面白いですね。

分離の戦術

前節で紹介した「UTM運用フレームワーク」の説明は、あえて戦略的な分離の面のみをフォーカスしました。
おさらいすると、戦略的な分離とは、運用意図、状況認識の共有や、空域制約、優先空域とのコンフリクト回避を通して、ドローン運用におけるあらゆる衝突を長期的視野で防ぐ取り組みです。

さて、UTM運用フレームワークには、分離に対する戦術的なアプローチもあります。

戦術的な分離とは、以下のようなトピックから構成され、高密度(人口密集地など)・異種トラフィック(有人航空機など)のあるような、より高リスクなエリアでの飛行における、戦略的な分離を補填するものです。

  • 飛行中のドローンの追跡
  • パフォーマンス認証の遵守を監視
  • 制約やアドバイスの活用
  • 検出と回避(DAA)

戦術的な分離は、リアルタイムで飛行するドローンに対する分離を維持するものであり、テクノロジーとしても難易度の高いものとなります。
最低限必要な「飛行中のドローンの追跡」は、各運航者からテレメトリーを提供してもらえば実現できますが、それだけでは不十分で、高リスクなエリアの分離において最も重要なのは「検出と回避(DAA)」です。
つまり、収集した飛行中のドローンの位置情報と、他のドローンの位置情報や、空域制約、気象・地形・障害物、有人航空機の位置情報、および、UVRなどの緊急空域などとのコンフリクトを、リアルタイムで検出し、自動または遠隔操縦で回避することが必要となるのです。

DAAは、UTMを構成するUSSやFIMSのような各種コンポーネント間のネットワークで行われるものの他に、飛行中のドローン間が直接付近のドローンと通信して、検出と回避を行う仕組みも検討されています。
前回のリモート識別の記事でも少し紹介しましたが、ドローンが自身の情報をローカルエリアにブロードキャストする仕組みが検討されており、ローカルエリアでドローン同士が通信を行って検出と回避を行うことで、ネットワーク上で行うよりも、速度的に、および、データ通信量的に、効率が上がることが期待されています。

DAAに求められるレベル(検出のみなのか、回避操作も含むのか、完全自動回避まで求められるのか、など)は、運航者が実施しようとしているビジネス(パフォーマンス)により違うと想定されており、DAA要件は運航者ごとに調整されることとなるようです。(おそらくパフォーマンス認証に含まれるのではないでしょうか?)

まとめ

今回紹介したトピックは、UTM運用コンセプトにおけるほんの一部でしかありません。
他にも、以下のようなトピックが記載されており、今回紹介したトピックをさらに深堀りして、UTMの意義を説いています。

  • 概念アーキテクチャ(FIMSとUSSの概念図)
  • UTMとリモート識別の関係
  • 空域管理のコンセプト(安全性とセキュリティ)
  • UTMの想定シナリオ

今回は、UTMが実現しようとしているコンセプトと、その思想となる「航空管制の分離ルール」と「戦略と戦術の考え方」について紹介したかったので、かなり抽象的というか概念的な話ばかりになってしまいました。

ドローンが都市部で目視外で物流や警備のために飛行する時代(日本の指標ではレベル4)を実現するには、この空域の安全管理の仕組みは絶対に必要であり、そのためのサポートを行うUTMは絶対に必要となります。

NEDOによる日本のUTMの研究開発は、2019年を目処に終了する予定のようです。(NEDO DRESSの公式サイトのスケジュールより)

NEDO:一般のドローン事業者も参画したドローン運航管理システムの相互接続試験に成功

アメリカでは、NASAが主導して研究開発したあとに、段階的にFAAに移管していき、UTM運用コンセプトを充実させてきたことを鑑みれば、日本もそろそろ日本版UTM運用コンセプトが当局から発表になるのかもしれません。

本日付け(3/30)で、政府がドローンの遠隔操縦の免許制度について、新しい動きがありました。

www.itmedia.co.jp

こういうものも、日本版UTMを見据えた法整備であると期待しています。いまはあまりちゃんとした繋がりは見えませんが。

それでは今回はこの辺で。

◆Previous Part
tomofiles.hatenablog.com

◆Next Part
公開未定