Tomofiles Note

ドローンとインターネット、そして人との関係を考えるソフトウェアエンジニアのアウトプットブログ

国内外のドローン関連プロダクトを調べる(5) 〜パッケージ・デリバリー〜

今回からシリーズ名を、ウェブサービス→プロダクトに変更しました。

こんにちは、Tomofilesです。

先日、ドローンによる荷物配送の領域で、新しい話題がありました。
AmazonのPrime Airが、ようやくFAAの規制免除の許可が下りたそうです。

xtech.nikkei.com

Amazonといえば、2013年という業界でも早いタイミングから、無人航空機(ドローン)による商品の配送を構想していた企業です。
UTMの民間主導を唱え、アメリカのUTMをフェデレーション・モデルで構築する方向に導いた、ドローン配送のパイオニアであることは、以前の記事でも紹介しました。

tomofiles.hatenablog.com

今回Amazonが認可されたFAAの規制は、Part 135というもので、ドローンに特別に特化したものではなく、一般的な航空会社としての認定のようです。
Part 135は、2019年春にGoogle(Alphabet傘下のWing)、同秋にUPS(米大手貨物輸送会社)が認可されており、Amazonは3例目となります。

14 CFR Part 135 Air Carrier and Operator Certification
Package Delivery by Drone (Part 135)

今回の記事は、これら3例のドローンにおける荷物配送(パッケージ・デリバリー)について、調査した内容をまとめていきます。
いつもどおり、インターネット上から検索した内容を元に構成していくため、推測が含まれる可能性があることをご容赦ください。
それでは行きましょう。

【目次】

ドローンと空からの配送

ラストワンマイルに期待

ドローンは、物流におけるラストワンマイル配送の課題を解決するソリューションとして期待されています。
以下の記事では、環境面におけるCO2の削減につながるテクノロジー、という見方でも、運送トラック等の自動車に変わる配送手段として期待されている、と記載されています。

www.ttnews.com

ラストワンマイル問題は、昨今のUber Eatsの盛り上がりを見てもわかる通り、物流の拠点から個別配送先までの間を繋ぐ仕組みに、様々な業界が新しいビジネス・チャンスを模索しているように見えます。
Uberはシェアリング・エコノミーで、この業界の課題に解決策を提案しているようですが、ドローン配送は、AI・ロボティクスによるテクノロジーでの、課題への解決策になります。

テクノロジーでの解決の場合、技術開発および運用開発も必要で、ドローンでの荷物配送を実現するには、これらの開発を通して得たプラクティスをルール化して、規制当局に能力を証明することで、規制を免除してもらうことができます。
今回、Amazonが取得したPart 135という規制は、Amazonが配送業を行う航空会社としてふさわしいか、技術的な安全性の証明や、各種安全対策などの運用(オペレーション)が妥当であるか、という点をチェックされ、承認されたものと思われます。
(詳細な情報は公開されていないので、はっきりしたことは言えませんが)

各社の取り組み

Wingのドローン配送

アメリカで最初にPart 135の認定を受けたのは、Alphabet傘下(Googleの親会社)のWingになります。

www.commercialuavnews.com

Wingのドローン配送は、以下の動画でよくわかります。

www.youtube.com

medium.com

テザーと呼ばれるワイヤーを介して、ドローンと人(オペレーター及び顧客)が接する方式となっており、ドローンは常に上空にいるため離着陸時に地上で人と接近することがなく、安全管理の問題を回避しているようです。

uavcoach.com

Wingのドローン配送の顧客ターゲットは、テストサイト(米バージニア州やオーストラリア、フィンランドなど)の一般市民で、コーヒーやパン、お菓子(、その他、雑貨など?)を配送しています。
当初は、医療品の輸送による救急分野への適用を目指していたようですが、未知なドローン配送そのものに加えて、医療品の取り扱いという複雑な課題も同時に取り組むことになるため、結局、医療関連は切り離して、まずは時間に敏感な他の貨物で技術と経験を磨くことにしたそうです。

wing.com

Wingは、独自のUTM(無人航空管制システム)を開発し、荷物配送の飛行経路の管理や、リアルタイム監視の技術を蓄積し、安全な空域管理を徹底しているようです。
フェデレーション・モデルによる賜物であり、企業が自社の利益追求のための安全管理を、独自に推進できる仕組み作りが、こういうところで活きてますね。

wing.com

ドローン配送の注文を受けた際に、配送先までの飛行経路をどのように構築しているかについては、あまり詳細な情報は公開されていないようです。
ただ、公式サイトにあらかじめ決められた航空路があるかのような、イメージ画像が公開されていることもあり、ある程度の航空路の設計はされており、地上車両の最短経路探索技術などが応用されているのかもしれないですね。

ドローンと唯一の接点であるテザーですが、どうやら故意に引っ張ったりすると、配送してきた荷物と共にドローンの機体から、リリースされるように設計されているそうです。
多少ドローンの姿勢は崩れるでしょうが、DJIのコンシューマドローンの自己姿勢推定技術などを見てもわかりますが、安定的な姿勢を保つ技術は進歩しているので、安全面は問題なさそうですね。

www.npr.org

この記事によると、WingはFAAから航空会社だと認められるまで、2014年から70,000回ものテストフライトを重ねてきたそうです。
こういうサイエンスな取り組み方が、いかにもアメリカって感じですが、規制当局の承認までの期間の長さを考えると、相当の厳しい審査を通ってPart 135が認可されたのだろうな、と推測できます。

ドローン配送の安全性が心配、という批判的な意見を目にすることもありますが、そもそも航空宇宙の規制当局から、航空会社としての承認を得ないとドローン配送事業が不可能、というシステムなので、安全性についてはそれほど心配は不要なのではと思います。
個人的には、飛行機が落ちる可能性が低いのと同じレベルで、ドローン配送が規制されているのでは、と思います。

UPSのドローン配送

ちょっとややこしいですが、アメリカで最初にPart 135の完全なレベル(Standard)での承認を受けた企業は、UPSでした。
Wingは2019年春の時点ではSingle Pilotというレベルで、その後UPSに続いて、Standardレベルの承認を受けたそうです。

www.ups.com

www.ups.com

www.nytimes.com

UPSはWingが一旦諦めた、医療分野でのドローン配送に力を入れている企業です。
病院の敷地内に適用範囲を絞って、ドローンによる血液サンプル等の医療用貨物を配送する事業を、Part 135にて認可されています。

UPSのドローン配送は、以下の動画がわかりやすいです。

www.youtube.com

医療サンプルを梱包した貨物をドローンに搭載し、病院の敷地内を飛行させ輸送しています。
Wingと違い、地上に離着陸するタイプのようで、ドローンと人(オペレーター)との接触がある運用となっています。

動画を見てみると、ドローンの離着陸ポートには常に地上監視員が設置されており、離着陸ポートの目視確認と無線による状況報告ができるようになっています。
ある意味この離着陸ポートが空港だとしたら、目視外に設置されている航空管制塔(UPS独自のUTM)とは別に、空港のグランドスタッフのような役割で、地上付近の安全を確保しているのかもしれません。

www.weforum.org

ドローンは昨今のCovid-19(新型コロナウイルス)のパンデミックと戦うツールとしても期待されています。
医療分野ということで、UPSもCovid-19対策に乗り出しているようですが、同じように医療分野でドローン配送に注力している企業に、米Ziplineもあります。

www.weforum.org

www.weforum.org

Ziplineは、アフリカのルワンダをテストサイトにしているため、FAAの承認とはあまり関係を持っていないようですが、ルワンダ政府とともに技術開発と運用開発に取り組んでいるようで、やっている事自体は同じですね。

ルワンダは山岳地帯が目立つ地形特性のようで、かつ、道路の整備がなかなか進まないという課題もあるらしく、ドローンによる航空輸送の開拓は大いに期待されているようです。

Amazonのドローン配送

今回のAmazonのニュースでは、Part 135が承認されたことだけが発表されました。

www.sciencetimes.com

個人的には、Amazonがどのようにドローンから顧客へ荷物を配送するのかが、気になっています。
Wingのようにテザーで物理的な距離を取るのか、しかし、UPSのように監視員を立てることは、現実的ではないです。

www.youtube.com

ちなみに、Ziplineの配送方法は、上空からのリリースです。パラシュートが展開するようになっていて、地上に着地してから拾って受け取ります。
なんとも大胆で、米国外をテストサイトにしているだけあって、自由な発想で構築している感じですね。

www.youtube.com

www.amazon.com

Amazonの公式サイトには、過去に作成されたイメージ動画が公開されていますが、顧客の描かれ方は、全てドローンから距離のある屋内に、律儀に待機しています。
すべての顧客がこんなに常識的ではないと思うので、このイメージ通りの運用にはならないと思うんですがね。

物流センター内のオートメーションの描写は、さすがに見事ですね。
荷積み待ちのドローンまでのラインと、ドローンへの荷積みの自動化により、配送開始までのオペレーション自体は、かなり以前から構想できていたのが伺えます。

とにかく、まだFAAに承認されたばかりなので、次のニュースを楽しみにしましょうか。

日本のドローン配送の状況

国内のドローン配送については、今年は日本郵便の実証実験のニュースがありますね。

dronemedia.jp

東京都奥多摩方面ということで、山間部の町なので地形特性を考えると、ルワンダと同じように航空輸送を検討するのは、非常に効果的だと思います。
(単純に人口が多くないから選ばれたんですかね…?)

logistics.jp

配送先には、Amazonでもイメージ動画の中で使っていた、QRコードを離着陸ポートに設置し、ドローンに認識させているようです。
屋根の上に設置してますけど、住民はどうやって配送された郵便物を回収するんですかね…?

drone.rakuten.co.jp

www.nikkei.com

日本のドローン配送と言えば、楽天ドローンもありますね。
楽天ドローンは、2019年の夏に離島に向けて定期配送する実証実験をしていましたね。

www.wwdjapan.com

日本でのドローン配送の現状は、R&Dの域を超えるか超えないか、って状況だと思います。
ドローンで配送することで、人的、時間的なコスト削減につながることを、実証実験で確認できてきているようですが、そこから政府や行政の規制に対するルールやシステムの開発が、あまり進んでいないような印象を受けますね。

アメリカのPart 135承認の3社と比較してみると、航空会社然としたオペレーションや事業方針のようなものが、まだ見えません。

なお、航空会社であるANAJALも、ドローン配送に向けた取り組みを始めているそうです。

www.aviationwire.jp

press.jal.co.jp

JALの事例は、ラストワンマイルというより、拠点間輸送でドローンを活用しようとしているものですね。
マルチコプターやVTOLも良いですが、シングルロータータイプのドローン(と言うかヘリコプター)もかっこいい!

おわりに

ドローン配送分野は、2019年から本格的に始まったと言っていいと思います。

アメリカでは、ドローン配送はあくまで航空事業の一貫として認識されていて、国内の空域を使用する輸送ビジネスは、ドローンからイメージされやすいホビー感・レクリエーション感から、空域安全の責任を負う空の仕事の印象に変わってきています。

それは、アメリカのUTMの考え方からもわかりますが、UTMは米国内の有人航空管制システムを補完するものであり、空の脅威から適切な分離を実現するものだ、というのは、以前の記事で紹介しました。

tomofiles.hatenablog.com

アメリカにおけるドローンの認識が、確実に、人を乗せる飛行機と同じステージで考えられていて、ドローンが真面目に社会インフラの一部を担うように、仕組みづくりが進んでいる印象を受けます。
これからも、アメリカのドローン配送の動向は、チェックしていきたいですね。

今回は、個人的に最近、物流・ロジスティクス業界に興味を持ったのが、この記事を書いたきっかけです。
ドローン事業を行う、現在の日本のテクノロジーベンチャーは、物流よりも、農業や災害、セキュリティーのシーンにおける画像解析などのセンシングに、力を入れている印象にあります。
私個人としては、インターネットとドローンを接続して、私の肉眼で見えない遠方まで飛んで仕事をするドローンが、一番テクノロジーとしてワクワクするものなので、物流・ロジスティクス領域での、ドローン配送には大いに注目してます。
できれば、この手で実現したい!

まぁ、今も業務でドローンに関する実証実験に関われているので、もしかすると近い未来、携われる可能性があるかも!?
いつか、日本でもドローン配送実現を!

それでは、今回はこの辺で。